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イン・コンサート / チック・コリア&ゲイリー・バートン

11 3月

イン・コンサート / チック・コリア&ゲイリー・バートン
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 演奏フォーマットとしての最小形式は一人、つまりソロである。そこから一人ずつ増えていくと、デュエット、トリオ、カルテット、クインテット、セクステット…となり、100人を数えるフル・オーケストラになることもある。メンバーが何人であっても役割りは一人ひとりにあるのだから、誰が重要であるかということは簡単にはいえない。とは言うものの、メンバーが少なければ少ないほど、一人にかかる責任が重くなることは確かである。 

 前回紹介した「ザ・ケルン・コンサート / キース・ジャレット」はソロ作品であるが、ソロとは全て一人の責任において完結する音楽形式である。他の誰の力にも頼らない代わりに、どのような曲をやるかも、どのようなテンポにするかも、あらゆるものが自由自在。すべてが自己責任であるが、気ままなフリーさがある。そこに一人加わったデュエット(デュオ、二重奏)はどうか。これが全く異なってくる。

 ここからジャズ・ミュージックを前提に話を進めるが、演奏メンバーが2人になると、様々な要素が複雑になる。まず二人であるからこそ、何においても対等の関係が必要になってくる。演奏力量もどちらか一方が大きく優っていると、そもそもコンビとして成立しない。互いが何の楽器の奏者であるかにより、どんなスタイルを構築するかすら変わってくる。

 どのような曲を演奏するか、ソロの取り方をどう配分するか、決め(2人がタイミングを合わせて強奏し、アクセントをつけるところ)をどう作り、どの場所に持ってくるか。テンポは、曲のオープニングは、そしてエンディングは…。事前の打ち合わせはあるものの、それ以外のすべてが2人それぞれの意志と、その時のアイ・コンタクト、そしてその場の呼吸により瞬時に決まっていく。

 今回紹介するのは、ひとときも目が離せないほどの丁々発止が実にスリリングで、そんな二人の奏者が創り出す時間を聴いている我々も共有できるアルバム、チック・コリアとゲイリー・バートンによるライブを実況録音した「イン・コンサート」である。

 ゲイリー・バートンが演奏するヴィブラフォン(ビブラフォン、Vibraphone)について、少し馴染みが薄いかもしれないので解説しておこう。これは略してヴァイブともいわれる鍵盤打楽器で、大型な鉄琴の一種といえる。毛糸のまかれたマレットで鍵盤を叩くと、角の無いまろやかな金属音が長く響く。鍵盤の下には共鳴管があり、鍵盤と共鳴管の間にある蓋を電気モーターの回転により開け閉めすることによって、その長い音を波のように増減させる。これが正にヴァイブレーション(ふるえ、振動)となり、この名の由来となっている。ジャズで使用される場合においては、このモーターの回転を使わない奏者が多く、長く伸びる直線的なトーンで演奏されるのが一般的だ。

 ヴィブラフォンとピアノ。この2つは一見似通った鍵盤楽器ではあるが、根本的にはまったく異なった音色を持っている。特にチックの音質は固めで、ときに冷たい印象を与える。ゲイリーのヴァイブがいることによってチックの音を優しく包み込み、心地良い音空間を醸し出している。

 チック・コリアとゲイリー・バートンが2人名義で初めてのアルバムを作ったのは1972年。この録音を先立つこと数年前、ゲイリー・バートン・カルテットにチック・コリアが在籍したのだが、2人共に個性的なプレーヤーであったためか、その時はあまりしっくりこず、チックの在籍期間も短いものだったそうだ。

 その後、とあるジャズ・フェスティバルで久しぶりに顔を合わせた2人がセッションをおこなう。それを聴いたECMレコードの創設者でありレコーディング・プロデューサーのマンフレート・アイヒャーは、2人にレコーディングを持ちかけ、それが1972年の「クリスタル・サイレンス」へと結実する。

 あらためて2人で演ってみるとこれが非常に相性がよく、世間にも好評を博し、その後何枚ものアルバムを作ることとなる。「イン・コンサート」は2人のコラボレーション・アルバムの3作目にあたり、スイス・チューリッヒでのライブ・レコーディングである。

 チューリッヒにレコーディング機材を持ち込んだマンフレート・アイヒャーの元に、ヨーロッパ・ツアーの途上である2人が空路やってきた。着いてすぐのくたくたの状態でライブ本番を迎えるのだが、チックはひどい風邪をひいていて、しかも用意されていたピアノは、スタインウェイのナインフット(一番大きなコンサート・グランド・ピアノ)ではなくセブンフット(少し小さなグランド・ピアノ)であった。「レコーディングは無理だ」という雰囲気の中、「せっかく機材を持ってきたのだから…」とアイヒャーはテープを回した。こうして賽は投げられたのだった。

<#1.セニョール・マウス>
 ラテンムード溢れるチックのオリジナル曲。2人の一作目「クリスタル・サイレンス」でも取り上げているが、今回のほうがテンポ設定が早く、アルバム1曲目から頭をガツンと殴られたような衝撃が走ること請け合い。何が起こるかわからないスリル満点のテイクとなっている。

<#2.バド・パウエル>
 バド・パウエルを敬愛してやまないチックのオリジナル曲。親しみやすいメロディーをもつミディアムテンポの曲だが、この2人にかかると楽しいだけに終わらない。無邪気に絡み合っているようにも聴こえるが、いや何とも気の抜けない演奏に、思わずニヤリと笑みがこぼれてしまう。

<#3.クリスタル・サイレンス>
 チックがグループを率いて作った傑作「リターン・トゥ・フォーエバー」にも収録されたスローナンバー。固定されたテンポはなく、全編がルバート(奏者が柔軟にテンポを変化させる)で演奏されている。ゲイリーの繊細なヴィブラフォンの響きがなんともマッチし、2人の呼吸もぴったり。この曲の名にふさわしい名演といえよう。

<#4.トウィーク>
 終始チックが主導していく形で演奏が進んでいく。それをバックに縦横無尽に跳ねまわるゲイリーのソロは聴きものだ。

<#5.フォーリング・グレイス>
 ジャズ・ベーシストであるスティーブ・スワロウが作った曲だが、ベース無しでも曲の美しさは変わらない。それにしても、この2人のテンションの高さは言葉を失うほどである。

<#6.ミラー,ミラー>
 ここで少し落ち着いてミディアム・テンポなチックの曲。ときにアタックがきつく、冷たく聴こえるチックのピアノを、ゲイリーのヴァイブが和らげており、まるで聴衆との架け橋を演じているかのようだ。

<#7.ソング・トゥ・ゲイル>
 2人の二作目「デュエット」にも収められている一曲。クラシカルなアプローチが感じられ、2人のルーツはクラシックにあることが伺える。

<#8.エンドレス・トラブル,エンドレス・プレジャー>
 5曲目と同じくスティーブ・スワロウの作品。チックの勢いは凄まじく、ゲイリーの滑らかなマレットさばきが冴え渡る。この曲の演奏終了を持って終演を迎えたコンサート会場だが、大きな拍手が鳴り止まないままフェード・アウト。

 数々の悪条件が重なりながらも、「まぁ取りあえず録ろうか」ということで録音したライブが、蓋を開けてみれば2人共にスロットル全開の見事なインタープレイ。全編に漂う緊張感が只ならぬ雰囲気を創り出した。そしてこのアルバムは、この年のグラミー賞を受賞するという栄誉を受けることとなった。

 得がたいパートナーとの濃密な時間。この2人を引きあわせたマンフレート・アイヒャーの慧眼(けいがん)には舌を巻くが、その縁をたぐり寄せ、見事なコラボレーションを聴かせる両名に拍手せずにはいられない。このような凄まじい演奏が記録として残された奇跡に感謝したい…。

 [ライター:三森勝仁(KatsuhitoWeb)]

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In Concert, Zurich, October 28, 1979 / Chick Corea & Gary Burton (EMC)

 1.Senor Mouse (Chick Corea)
 2.Bud Powell (Chick Corea)
 3.Crystal Silence (Chick Corea)
 4.Tweak (Chick Corea)
 5.Falling Grace (Steve Swallow)
 6.Mirror, Mirror (Chick Corea)
 7.Song To Gayle (Chick Corea)
 8.Endless Trouble, Endless Pleasure (Steve Swallow)

  ・Gary Burton : Vibraphone
  ・Chick Corea : Piano
                              [Recording Date 1979.10.28]

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投稿者: : 2013年3月11日 投稿先 2.Jazz(ジャズ)

 

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