RSS

ザ・ケルン・コンサート / キース・ジャレット

11 2月

ザ・ケルン・コンサート / キース・ジャレット
» ザ・ケルン・コンサート / キース・ジャレット

 クラシック・ミュージックとジャズ・ミュージックの違いは何であろう。よく言われるのは「譜面重視のクラシック」と「即興重視のジャズ」という対比だろう。クラシック・ミュージックを語る場合においては、その譜面を書いた作曲家や譜面に書かれた内容をベースにすることが多い。それに対しジャズ・ミュージックを語る場合においては、そこで演奏している演奏者や曲の旋律の奏で方や即興演奏などの内容をベースにすることが多い。現代この2つの音楽を比較するとき、多少の例外はあれど、この比較を真っ向から否定する人はまずいない。 

 しかし….である。実は、クラシックの歴史を遡ってみると、こちらもかつては即興演奏が当たり前だった…ということを知っているだろうか。それは作曲家と演奏家が一緒(作演一致)だったころの話ともいえる。例えばJ.S.バッハ。彼は作曲家であるのみならず、ヴァイオリン、オルガン、ピアノなどを自在に奏でる演奏家でもあったのだが、彼が教会などの場で閃(ひらめ)いたままに演奏したものが、そののちに楽譜に書き起こされ、それが現代まで残され弾き継がれている…という曲が多数あるという話がある。となると、クラシックは譜面通りの演奏を行うだけではなく、即興演奏がジャズの専売特許とは言い切れないわけだ。

 本日紹介するのは、通常は「ジャズ」とカテゴライズされてはいるものの、前述のバッハのような即興をこの時代に蘇らせたようにも思え、つまりはジャズともクラシックとも特定し難い面を持っているアルバム、キース・ジャレットのソロ・ライブを記録した「ザ・ケルン・コンサート」である。

 このアルバムの特徴は、キースが1975年1月24日にドイツ・ケルンを訪れ、ケルン・オペラ劇場においての「完全即興演奏」によるピアノ・ソロ・コンサートを行い、それを実況録音したものであるというところにある。

 この日、長い自動車移動の末の夕方ケルンに着いたキースは疲労と睡眠不足のために極めて体調が悪かったそうで、しかもコンサート会場に用意されたピアノは、事前にリクエストしておいたベーゼンドルファーのフルサイズピアノではなく、リハーサル用に使われるコンディションのよくない小さなピアノだった。キースはコンサートをキャンセルしたかったが、チケットはソールドアウトであり、それは叶わなかった。開演時間はなんと23時30分。夜中のオペラ専用劇場に満場の観客が詰めかける。その場にキースはたった一人で立ち、ピアノに向き合い、そして座った。

 先ほど「完全即興演奏」と書いた。このアルバムには4曲収録されているのだが、そのいずれもに曲名がない。いや、あるにはあるのだが、下記の通りなのだ。

<#1.ケルン,1975年1月24日,パート1>
<#2.ケルン,1975年1月24日,パート2a>
<#3.ケルン,1975年1月24日,パート2b>
<#4.ケルン,1975年1月24日,パート2c>

 このように、土地の名、日程、そして記号のような文字が書かれているのみである。この日、キースは演奏曲を用意せず、この地を訪れた印象のままにピアノを弾いた…と言われている。つまり「4曲」なのではなく、「4つの演奏の断片」ということになる。

 完全なる即興。いや、果たしてそうなのだろうか。キースに聞いたら「確かにそうだ」と言うのかもしれないし、そんなことはとうに忘れてしまっているかもしれない。もしかすると、ところどころは断片として用意してあって、そこに至るまでを模索しながら紡いでいるのかもしれないし、用意したわけではないが心の奥底に潜んでいた音のかけらがこの瞬間に表層に湧き出てきた…ということなのかもしれない。

 しかし、そのいずれであってもよかろう。この録音がこの上なくエキサイティングであり、ビターであり、それでいてビューティフルであり、ロマンティックであることには変わりがない。

 気の赴くままの即興ソロ演奏というとだらだらと長く、取り留めもなくなってしまうことが懸念されるが、曲の始まりから終わりまでの構成が見事で、難解にも冗長にもなることがない。ときに声を発しながら、大胆なリズムで鍵盤を縦横無尽に駆け回る指の生命力、その躍動感は非常にエモーショナルだ。ハーモニーやメロディーのセンスは圧巻で、どこを切り取っても極めて美しい。それはもう言葉を失ってしまうほどに。

 悪条件というのは、ときにそれを乗り越えた先に孤高の世界を切り拓くときがある。この一夜はまさにそれで、これこそがバッハなどの偉大なる先人が行なっていた「作演一致」の極地ではないかと想えてくる。

 私にとって、同時代に生きていていることに感謝せずにはいられないミュージシャンは片手で余るほどに少ないのだが、キースはそんな数少ない人物の中のひとりである。

 果たしてこれがジャズなのであろうか。この問いはもはや意味を成さない。そんなものは軽々と超えてしまった存在がここにある。「聴く」のではなく「体験する」。このアルバムにはそんな言葉がふさわしい…。

 [ライター:三森勝仁(KatsuhitoWeb)]

—————————————————————————————————-
The Koln Concert / Keith Jarrett (EMC)

 1.Koln, January 24, 1975 Part I
 2.Koln, January 24, 1975 Part IIa
 3.Koln, January 24, 1975 Part IIb
 4.Koln, January 24, 1975 Part IIc

  ・Keith Jarrett : Piano
                         [Recording Date 1975.01.24]

ザ・ケルン・コンサート / キース・ジャレット
» Amazonで詳しく見る

—————————————————————————————————-

広告
 
2件のコメント

投稿者: : 2013年2月11日 投稿先 2.Jazz(ジャズ)

 

ザ・ケルン・コンサート / キース・ジャレット」への2件のフィードバック

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

 
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。