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【狂気 – The Dark Side of the Moon】Pink Floyd

14 1月

狂気という名の鎮静剤

The Dark Side of the Moon

やはりロックの名盤といえばこのアルバムは必ず入ってしまう。この作品をまとめるというのは文字数が足りないくらい非常に難儀な傑作である。というか、長過ぎたので削った。

ピンク・フロイドの8作目として1973年3月の発売から40年。現在も売れ続けている超ロングセラーアルバムである。

歴史的ロック名盤の大本命といえる『狂気』の魅力を探ってみる。

ピンク・フロイド

『狂気』

リリース1973.3.24

■プログレッシブ・ロック

まず、ロックの中でも「プログレッシヴ・ロック(プログレ)」という言葉は、このピンク・フロイドを形容する際に生まれた言葉なのは有名な話し。プログレッシヴ(Progressive)=前衛的・先鋭的という意味だが、現在では主に楽曲の展開が難解複雑でテクニカルな技術を駆使して演奏するバンドという見方が多くなっている。一般的にプログレというとピンク・フロイド、キング・クリムゾン、イエス、ジェネシス、EL&P(エマーソン・レイク&パーマー)など1970年前後にデビューし活躍していた、シングル中心ではなく、テーマを持ってアルバムを制作する劇場型の大作バンドといえる。サウンドや演奏方法からくるようないわば「ブルース」といったようなジャンルとは違い、もっと自由に実験的にといった指向が似ているに過ぎない。
イエスはテクニカル指向の強いバンドであるし、
ジェネシスはピーター・ガブリエルを中心としたリリカルで演劇的な演奏アプローチで独特の世界を創っていた。
キングクリムゾンは奇才ロバート・フリップが構築する様々な音楽ジャンルの融合と実験的な指向が強い。
EL&Pは電脳クラシックワールドといいたいくらい、キース・エマーソンのモーグやシンセサイザーをメインにクラシカルを踏襲する組曲が多かった。
それぞれがそれぞれに個性を持ったバンドが多く、特にプログレに限らず60年代後半から70年初期のロックはドラスティックに急速に変化を遂げていった。
そしてこの時期のロックバンドは、そのメンバーでなければ出せないサウンドとテンションを持っていた事も事実だ。
では、ピンク・フロイドの音楽って何なのさ。となると、まずテクニックで押すという派手さはない。一言でいえば映像に関するイマジネーションを活性化させる特性(エネルギーと言おうか魔法と言おうか・・)があるといったところか。つまり聴くと音楽が頭の中で可視化してくるという独特の音空間と映像を提供してくれるところにあると思う。実際、ライヴでは70年代からレーザーやヴィジュアルを多用し映像と音楽の相性がよく親和性があるバンドである。

■シド・バレットの「ピンク・フロイド」

前述した音楽性。それは紆余曲折、試行錯誤してうまれた70年代以降からで、65年の結成当初はロンドンのアンダーグラウンドのスター、シド・バレットを中心としたドラッグありきのサイケデリックロックのトップバンドであった。67年の1st発表後リーダーでありソングライターであるシドが心身ともに冒され2nd制作前に離脱。急遽ギタリストをシドの友人であるデイヴ・ギルモアに依頼した。結局ギルモアを正式にメンバーとして迎えたのち、4人でここから正に紆余曲折のバンド人生を歩むこととなる。ここ日本で認知度を高めたのが意味不明なタイトルの5th「原子心母(Atom Heart Mother)」で牛のジャケットがとても斬新で有名である。ここから1曲23分に及ぶコンセプトを持った作風があらわれ、そしてこれも良作だった6th「おせっかい(Middle)」でその大作指向のクリエイティビティは増幅することになる。7作目は映画のサウンドトラックとして創作し、その次にリリースする1973年の8作目が世界的にヒットした「狂気(The Dark Side of the Moon)」である。
 

■アルバム『The Dark Side of the Moon』

あまりにも原文タイトルより邦題のタイトル「狂気」という言葉がなんとも素晴らしい対訳である。言い得て妙とはこのことだと思う。
ダークサイド・オブ・ザ・ムーン=月の裏側。つまり「月の裏側の闇」は「人間の奥底に潜んでいる闇」を示し、このテーマを基にアルバムがつくられているコンセプトアルバムの金字塔だ。
リリースは1973年だが基本コンセプトとは1971年に出来上がっており、メンバーはライブ活動においてこの曲を練り上げていった。72年の半ばにスタジオに入る頃にはほとんどの曲は完成していた。バンドのメンバーたちはこのアルバムをより良いものにしていくために数多くの編集がなされていく。得意なエコーなどのサウンドエフェクツ、会話やテープループなどのミュージックコンクレートも曲中曲間などに効果的に多用し当時としては非常に長い9ヶ月に及ぶ制作期間を費やしている。当時はサンプリングマシンなどのハイテクはないので人間の手でテープを切り張りし、会話などをマスターテープに貼り付けていった。そのとき編集作業したアビー・ロードスタジオのエンジニア、アラン・パーソンズである事は有名な話である。特に「マネー」冒頭のレジとコインの音でリズムを刻むあのイントロはメンバーが録った音を編集するだけでも1ヶ月かかったといわれる細かい仕事だ。
通常これだけ長いレコーディング期間を費やすとオーバープロデュースになりバンドサウンドから遥かに逸脱した分厚い音になってしまうものだが、以前のアルバムに比べサウンドはよりシンプルに解りやすく作られている。それまでのピンク・フロイドのサウンドは抽象的な作風が多くそれがまた魅力であった。ところが狂気に関しては、表現が具体的でより全体が洗練され、キャッチーなリフレインも多く、コードの展開もとても心地の良い。またアルバム全体が1つの楽曲のような工夫もとてもよくできている。サックスのソロやギルモアのギターソロ、5曲目の「ザ・グレイト・ギグ・ザ・スカイ(虚空のスキャット)」のクレア・トリーの情感たっぷりのスキャットなど、バックの演奏との調和は見事で素晴らしいサウンドが満載なのだ。
特筆すべきはこのアルバムはある一定のテンポ付近で構成されているのであること。1曲目「スピーク・トゥ・ミー」のイントロで鳴っている鼓動(ドラムス)のテンポ。リズムこそ変わるが、ほとんどこのテンポは同じなのである。このテンポが「太陽のテンポ」といわれる60BPMや「月のテンポ」といわれる58BPMの倍のカウント116〜120BPMに近く少し早いくらいなのだ。つまり「人が生きる上で最も自然なテンポ」に近いテンポな訳で、そこに判りやすい自然なコード展開と馴染みやすいメロディー、練り上げられたサウンドプロダクツが組み合わさることによる絶妙な気持ちよさを体が自然に感じているという作風になっている。だからといって平坦ではなく、見事に緊張感と安堵感を共存させ聴くものをドラマの世界へ導く。もっというと安心して「自己の深層」へ旅立たせてくれるのだ。
このアルバムから全ての歌詞はベースのロジャー・ウォーターズが作詞している。特にコンセプトとして掲げている「人間の闇」について哲学的で意味深い言葉で書かれているが、単語自体はさほど難しい言葉は用いられてはいない。ただ、意味を理解しようと考えるとこれが結構へヴィーなのである。狂気に通じる事象をが数曲あり、このアルバムのテーマを象徴する9曲目「ブレイン・ダメージ(狂人は心に)」に集約されていく、「ブレイン・ダメージ」には調和のための社会と、その社会にいきる他人にどう関わっていくかという部分を狂人の人になってしまった元メンバーで旧友のシド・バレットをモチーフに描かれている。そしてタイトルにもなった決めの台詞が出てくる「もし君のバンドが違った曲を演奏しはじめたら、僕は君と月の裏側で会おう」と・・・。

Track List

  1. スピーク・トゥ・ミー – Speak To Me (Mason) 1:05

    心臓の鼓動からはじまるアルバムの導入。アルバムを構成する全ての曲の断面を組み合わせたミュージック・コンクレート。曲というより効果音。ピアノの不況和音が引き伸ばされ、次曲「生命の息吹へ」

  2. 生命の息吹 – Breathe (Gilmour, Waters, Wright)  2:50

    もともと「スピーク・トゥ・ミー」と2つセットでクレジットされているが別にする。とても優しいゆったりとした曲調にのせて、臆病になっている我々に「空気を吸い込んで。怖がらないでここから出て行こう。さあ、走り出れ!」と話しかけてくる詩と唄。ギルモアのスライドギター(ラップトップスティール)が印象的で浮遊感を醸し出している。

  3. 走り回って – On The Run (Gilmour, Waters) 3:45

    シンセサイザーで走り回る音を表現した実験的な曲。ここからフロイド的狂気の世界へ入ることになる。シンセに飛行機や笑い声のSEが絡み付くようにアレンジされた未来的なインスト曲。

  4. タイムブリーズ(リプライズ) – Time〜Breathe (Reprise) (Gilmour, Waters, Wright, Mason) 6:54

    けたたましい時計の音から始まる「時間」をテーマにした曲だが、ただ流れ行く時間に何も出来ていない自分に「お前はその時(Time)をいつも逃しているんだ。何が大切か気付きもしないで」と怒りを露に唄っている。アルバム中最もロックな曲かもしれない。イントロののんびりさとは対照的にギルモアのボーカルが始まってからの力強さは、自己嫌悪の怒りに満ちている。ギターソロからもその感情は充分伝わってくる。コーラスワークも秀逸。

  5. 虚空のスキャット – The Great Gig In The Sky (Wright) 4:44

    美しく幻想的なナンバーだ。女性(クレア・トリー)のソウルフルな熱唱は、精神的に昂揚させ完全に狂気の世界へと引き込まれてしまう。歌詞はないが、生と死、苦しみと喜び、憎しみ、悲しみなど人間の持つ感情と葛藤がしっかりと表現されている。

    ここでアナログ版のA面が終わるので1度途切れる。
  6. マネー – Money (Waters) 6:23

    米でシングル・ヒットを記録したナンバー。「金」をテーマにしている。直接批判めいた言葉はでてこないが、「いやらしい」ものとしてシニカルに表現している。7拍子のダレダレ感がどうにもならないくらい人を堕落させているモノを伝えている。4/4拍子になるギターソロがアルバムでも最高にロックしている。お金がもたらす狂気を曲にしたためたのだろう。

  7. アス・アンド・ゼム – Us And Them (Wright, Waters) 7:49

    浮遊感漂うドラマティックな楽曲。一見反戦をモチーフにしているようだが、将軍の采配でで簡単に死する者達(Them)とそうした事情を知りながらどうにも出来ずに生きている自分達(US)の葛藤と無力さを描いている。オルガンの音色と美しいサックスがソロをはじめ曲全体に人間的な切なさを映し出しているが、作詞のロジャー・ウォーターズの父親が戦死していることと当時のヴェトナム戦争が背景にあってできたメッセージ性の強い楽曲であるのだろう。ここでいう「US」の無力さであったり、現実社会の不条理がまた狂気を生む一因でもあるのだ。

  8. 望みの色を – Any Colour You Like (Gilmour, Wright, Mason) 3:26

    アス・アンド・ゼムからいきなりソロのように繋がる幻想的な奥行き感のあるインスト・ナンバー。実はこのアルバムの中で1番好きな部分である。ギルモア得意のスキャットとギターのユニゾンプレイがFunkっぽくかつドラマチックに次の「狂人は心に」に繋がる。

  9. 狂人は心に – Brain Damage (Waters) 3:47

    このアルバムの核心でクライマックス。牧歌的な曲調とは裏腹に心の内面に潜む狂気をストレートに唄っている。前述したが、この曲には他人の中の自分だったり、自分は本当はものすごく社会から逸脱しているかもしてないなど自分が何者なのかということをシドという人間が狂人になっていくまでを見たからこそ問いかけている歌だ。

  10. 日食 – Eclipse (Waters) 2:10
「ブレイン・ダメージ」だけでは救われないと思ったロジャーがアルバムのコンセプトを完結させるために制作した楽曲。これ以降フロイドの歌詞に多用される言葉を羅列する構成となっている。曲調もメジャーになり、自己の深層へ深く入り込んだリスナーの精神を浮上させてくれる役割をおおいにになっている。コーラスワークがとても心地よい。
しかし、希望に満ちていても、陰る時があるという暗示がなされている。
このアルバム以前の6作目『おせっかい』(1971)の6曲目「エコーズ」と次作9作目「炎〜Wish you were here」(1975)の全てが『狂気』ワークスだと個人的には思っている。この頃のピンク・フロイドのメンバーはクリエイティビティで創作面も演奏面も充実していたに違いない。
この「狂気」は今現在でも米ビルボードチャートに名を連ねている。2012年のビルボード200(アルバムチャート)年間チャートには196位でランクインしていた。つまり40年前の作品がまだ売れ続けているということだ。ビルボードチャート自体チャートインの条件を時代に寄って変えていることと、70年後半まで売り上げ枚数の集計が曖昧であることから正確な数字は判らないが、枚数よりもこのアルバムは1973年3月〜88年(当時のビルボードのチャート規定)まで15年間ランクインし続け、750週チャートインというギネス記録を持っている。2位が350週くらいだからこの先も破られることのない記録だ。
なぜ、世代を超えて聴かれるのか。
あの有名なデザインチーム「ヒプノシス」のストーム・ソーガンがデザインした黒地にプリズムを描いたジャケット、巧みな編集技術、判りやすくドラマチックな曲調、確実な演奏技術と表現力、それに普遍的なテーマをシンプルに演出表現したことと制作以前にしっかりしたトータルイメージが出来上がっていたこと。さらには当時の世界的社会情勢とアルバムコンセプトがマッチしたといった様々な奇跡が重なり合い、いまだに聴かれることになっているのだろう。
個人的には、狂気を描いているがアルバム「狂気」を通してリスナーの自己浄化ができるのではないかと思っている。つまり、楽曲が自己深層へ誘ってくれ、音楽体験を通じて自分と向き合う作業をしているということだ。このアルバムを聴くと、そういうトリップした感覚をもたらし、聴いたあと再び浮き上がってきたときに何とも清々しい感覚を覚えるのはそういうことだと理解していえる。
そういうアルバムには滅多に出会えるモノではない。そのことがこのアルバムを名盤中の名盤たる揺るぎないものにしている。ここまで書いておいていうのも変だが、まだまだ書き足りてはいない。削除してこのくらいの文面だ。もっと聴いてもらいたい部分をピックアップして解説したいところだが、この辺でやめておこう。
by タバチン
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投稿者: : 2013年1月14日 投稿先 3.Rock(ロック)

 

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