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キャンディ / リー・モーガン

12 9月

キャンディ / リー・モーガン
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 「弱冠(じゃっかん)」という言葉がある。古代中国では男子の20歳を「弱」といい、その歳になると元服して冠をかぶったことから、男子の20歳を「弱冠」と言うようになったそうだ。日本語としての意味もそのまま「男子の20歳」であるのだが、昨今は「弱冠19歳」などと間違った使われ方が多くみかけられる。しかし、世は生々流転。言葉も時の流れで変化していくものであるなら、いつしかその意味すらも「20歳」ではなく「年若くして」という風に変化していくのかもしれない。 

 今日紹介するリー・モーガンは、「弱冠」という言葉をつけて紹介されることが多いジャズ・トランペッターだ。なんせ、彼がシーンに躍り出たのが18歳。そのタイミングは当時人気実力ともにトップにあったジャズ・トランペッターのクリフォード・ブラウンが交通事故で帰らぬ人となった直後のことであり、その音色の艶やかなことからも「クリフォード・ブラウンの再来」などと言われた。まぁそのクリフォード・ブラウンも「ファッツ・ナバロの再来」と呼ばれたそうなので、人は今は手にすることは出来ぬ過去にとらわれるものであることも垣間見えるエピソードではある。

 上記の如く語られるブラウニーとモーガンだが、実際のプレイスタイルは実はかなり異なる。ブラウニーが天真爛漫ともいえる明るく伸びやかな音色を持っているのに対し、モーガンは陽気で溌剌としたプレイの中にアウトローな危うい雰囲気を内包している。そして、ぎらりと光る刃物のように鋭くとがった危険で奔放な匂いの中に、ピュアで無垢な青春の香りが漂う。これこそが、モーガンを「永遠の不良少年」たらしめている魅力であろう。

 本アルバムは、18歳でリーダー・レコーディングを果たしたモーガンが、それからほぼ1年後に19歳で吹き込んだ7枚目のリーダー・アルバムである。もう一度言うが、1年で7枚のアルバムである。それ以外にサイドメンとして16枚のレコーディングに加わっており、この事実だけを取っても如何に非凡なトランペッターであったかかが伺い知れるし、更にその年令を考えると驚異的という言葉でもまだ足りないほどのインパクトを今日の我々に与える。

 この作品が特徴的なのは、管楽器奏者が1人のワン・ホーン・カルテット(4重奏)である点だ。トランペット、ピアノ、ベース、ドラムスというこの編成に、トランペッターが取り組むことはあまり無い。(対してサキソフォン奏者には多く見かける…) モーガン自身も、本作前の6作のうち3作がクインテット(5重奏)、3作がセクステット(6重奏)という編成であった。他にホーンがいないということで、これまで以上にチャレンジングになったモーガンのトランペットを余すところ無く味わえる。また、ジミー・ヒース作曲のC.T.A.以外はすべてスタンダード・ナンバーである「歌もの」ということも本作の魅力の一つである。

<#1.キャンディ>
 アート・テイラーの鋭いブラシの刻みによる8小節がオープニングを飾り、それにモーガンの吹くテーマが続く。この胸がキュンとなるメロディの歌い方はどうだ。この出だしだけで我々の心は鷲掴みにされてしまうではないか。何ともチャーミングで愛らしいテーマ演奏である。キュートなメロディの甘い部分は損なわず、それでいてきりっと引き締まっているのは、テイラーのブラシ・ワークによるところが大きい。そしてソニー・クラークにつづくモーガンのソロ。初めは中低音で抑えながら徐々に盛り上げていくソロ構成の見事さ。強奏した時のモーガンの破裂音にしびれる。

<#2.シンス・アイ・フェル・フォー・ユー>
 一転してダークな雰囲気が漂う2曲目はR&Bのヒット曲として知られる曲。ぽつぽつと呟くように演奏されるトランペットが渋い。ダグ・ワトキンスのベースが曲全体の空気を作り出しており、彼こそがこのテイクの影の主役である…といっても過言ではない。

<#3.C.T.A.>
 スピード感溢れる楽曲。テーマにつづくソロでモーガンのエンジンは全開。どたばたと手数の多いテイラーのドラミングも好感が持てる。ちなみに「C.T.A.」とは、作曲者ジミー・ヒースの付き合っていた女性コニー・テレサ・アンのイニシャルだそうな。

<#4.オール・ザ・ウェイ>
 ジェローム・カーン作曲のスタンダード・ナンバー。哀愁あるメロディをたっぷりと歌い上げるモーガン。それにつづくクラークのソロは、彼の特徴である「後ろ髪を引かれるような」陰影に富んだタッチで心地いい。そのあとのモーガンのソロは、有名な「アイ・リメンバー・クリフォード」を彷彿とさせる丹念な吹奏で、聴いているこちらがトロけてしまう。実に美しい。

<#5.フー・ドゥー・ユー・ラブ・アイ・ホープ>
 ガラリと雰囲気を変えて軽快なスタンダード・ナンバー。安定感のあるワトキンスのベース・ワークが頼もしい。割れていても不快にならず、むしろ気持ちがいいトランペットの音色とはこういうことをいうのだ。

<#6.パーソナリティ>
 ゆったりとしたミディアムテンポの曲。なんていうことはないメロディに加えるフェイクが小粋なモーガンのテーマ演奏。そして、その曲想から大胆に踏み出して展開し、一気に視界が広がるソロの見事さ。こういうソロ構成をさらりとやってしまうところに、まさに天賦の才を感じずにはいられない。

<#7.オール・アット・ワンス・ユー・ラヴ・ハー>
 LPには未収録で、CDではボーナストラックとなっている曲。発掘当初はタイトルがわからず「Untitled」とされていた。本アルバム中で最も速いテンポで演奏されている。後半、モーガンとワトキンスがデュオになる瞬間は「サキソフォン・コロッサス / ソニー・ロリンズ」における「ストロード・ロード」を思わせ、スリリングで聴き応え十分。その後のテイラーの4バースも熱い。このテイクが未収録だった意味がわからないが、収録可能時間が短かく、A・B面に分けざるを得ないLP時代ゆえか。

 本作の録音からほぼ1年後、モーガンはアート・ブレイキー率いるジャズ・メッセンジャーズの一員となり、その年に吹き込んだアルバム「モーニン」によって更なる人気を獲得し、ファンキー・ブームの渦中に身を投じていく。その後一時の不調はあるものの、8ビートのジャズ・ロックという新サウンドを開拓した「ザ・サイドワインダー」は空前の大ヒットを飛ばすこととなった。

 ドラッグにまみれながらも輝きに満ちた演奏を残してきたモーガンに、人生のエピローグが突然訪れる。その日、彼はニューヨークにあるジャズ・クラブ「スラッグス」でのライブに出演していた。その2ステージと3ステージの合間の休憩時間、当時の愛人・ヘレンに拳銃で撃たれてしまうのだ。ただちに病院に運び込まれたが、ほぼ即死状態であったらしい。33歳という若さであった。

 ある人は「ハード・バップとはリー・モーガンのいる風景である」と言った。ファンキー・ジャズ、ジャズ・ロック、新主流派ジャズなど、ジャズの新たなサウンドに取り組みながらも、どの場面でも頑なに粋なハード・バッパーだった彼。そうして行き着いた先で、恋人の銃弾によって命を落とす。その人生の最後まで、なんと「不良少年」であったことだろう…。

 [ライター:三森勝仁(KatsuhitoWeb)]

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Candy / Lee Morgan (Blue Note)

 1.Candy (Alex Kramer)
 2.Since I Fell For You (Buddy Johnson)
 3.C.T.A. (Jimmy Heath)
 4.All The Way (Jerome Kern)
 5.Who Do You Love, I Hope (Irving Berlin)
 6.Personality (Jimmy Van Heusen)
 7.All At Once You Love Her (Richard Rodgers)

  ・Trumpet : Lee Morgan
  ・Piano : Sonny Clark
  ・Bass : Doug Watkins
  ・Drums : Art Taylor
                         [Recording Date 1957.11.18, 1958.02.02]

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投稿者: : 2012年9月12日 投稿先 2.Jazz(ジャズ)

 

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