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ブルー・トレイン / ジョン・コルトレーン

22 8月

ブルー・トレイン / ジョン・コルトレーン
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 完成されてしまうと魅力が薄れる…。物事にはそのような一面がある。例えば石原裕次郎。「太陽にほえろ!」,「大都会」,「西部警察」などは、ある一定の年代には強烈な印象として記憶されている。しかしいま思うと、それは彼が石原プロダクションを率いてテレビというマスメディアに安定して登場した晩年(実は病に冒されるなどあったが…)の一定期間にあたる。彼が光り輝いた季節は、テレビ俳優より前の映画俳優として何の下地も無い中からスターダムにのし上がった若い時代であろう。未熟で粗削りな演技であったが、むしろその未完成な中に垣間見える危うい魅力に、当時のうら若き乙女は熱狂し、時代は彼に微笑んだのだった。 

 今回紹介するアルバム「ブルー・トレイン」は、当のジョン・コルトレーン自身にとっては「若い時代の記録の一つ」という意味合いになるかもしれない。その後の彼が残したジャズ・ジャイアンツとしての偉大なる歩みを考えれば確かにそうも言える。しかし、その後の確固たる地位を占めるに至る完成された彼にはみることができない魅力を、本アルバムが内包していることもまた事実である。

 このアルバム録音当時のコルトレーンは、麻薬が原因でマイルス・デイビス・コンボを解雇されたのを機にセロニアス・モンクのグループに移籍し、モンクから多くのことを学んだ時期にあたる。コルトレーンが本当の意味で快進撃をはじめるのはもう2年ほどあとのだが、ジャズ史に大いなる足跡を残すマイルスとモンクの2人から吸収したことの多くは、当時まだ新人扱いされていた彼にとって大きな刺激であったことだろう。後年、孤高なまでにストイックな姿勢で突き進むコルトレーンから比べると、本アルバムの彼は伸びやかで大らかな明るさがある。本作の魅力はそこにあり、時を経た今なお衰えない人気ぶりからみても、それはジャズ好きの誰もが共通して感じていることなのだろう。

 居並ぶメンバーがなんとも魅力的な本作。当時31歳になる直前だった彼がレコーディングのために集めたのは、19歳のリー・モーガン(Tp)と22歳のカーティス・フラー(Tb)という、新進気鋭の逸材として注目されていた2人。そして、ポール・チェンバース(B)とフィリー・ジョー・ジョーンズ(Dr)はマイスル・コンボで一緒だった旧知の仲。さらには、コルトレーンより年下ながらも50年代初頭からシーンで活躍してきたケニー・ドリュー(P)。レギュラー・グループではないものの、程よくアレンジされたテーマのハーモニーや、所々を引き締めながらもリラックスした中で展開される各人のソロなど、単なるブロー・セッションに陥っていない。これは、このためにアイディアを温めてきたというコルトレーンの周到な準備と、プロデューサーであるアルフレッド・ライオンの力量によるものであろう。

<#1.ブルー・トレイン>
 いきなり3管編成の魅力満載のメロディーから始まる。こういう時のトロンボーンの柔らかな音色は堪らない。こののんびりしたテーマが終わり、コルトレーンのソロに入ると急に様相が変わる。この8コーラスに渡る激しいブローは力強く伸びやかで、心地いい緊張感が伝わってくる。10分を超える長尺なテイクだが、その長さを感じさせない各人の引き締まったプレイが展開される。

<#2.モーメント・ノーティス>
 一転してスピード感溢れる軽快な曲。コルトレーンが奏でるテーマに掛け合いを入れる2管。コードがころころ変わる難曲だが、その枠の中で見事なまでに自由な吹奏をするコルトレーン。それに続くフラーは、1曲目とは異なる歯切れよく粒立ちのいいソロを聴かせる。ブリリアントな響きのモーガンも圧巻のソロだ。アルコでソロを取るチェンバース、右手と左手の対比が抜群なドリューのソロもいい。そして、それらすべてを引き出すフィリー・ジョーのドラミングの何たるドライブ感。

<#3.ロコモーション>
 疾走するドラムソロから始まるこのナンバーは、2曲目とは逆にTpとTbの吹奏にフックをかけてコルトレーンがテーマを引っ張る。Locomotionとは「移動」という意味だが、このテンポ、かなりの「高速移動」である。この曲の疾走感を体現するフィリー・ジョーのソロも聴かれ、再度テーマに戻ったあと、徐々にスローダウンしてエンド。味わい深い余韻が残るエンディングである。

<#4.アイム・オールド・ファッションド>
 本アルバム唯一のスローナンバーであり、コルトレーン作曲でないスタンダード・ナンバー。この魅力的なバラードを、コルトレーンは切々と奏でている。フラーの呟くようなソロも心地よい。10代とは思えない落ち着きっぷりのモーガンのソロのまま終焉を迎える。実に美しい。

<#5.レジー・バード>
 小気味いい音でモーガンがテーマを取り、そのままソロに入る。そしてフラー、コルトレーンと起伏に富んだ流れのままドリュー、チェンバース、フィリー・ジョーのソロへの淀みない展開。最後はまたモーガンが奏でるテーマとなり、徐々にスローダウンしていくエンディングで締め括る。この曲だけ聴いていると、まるでモーガンのアルバムであるかのような堂々たる姿が浮かんでくる。驚くべき19歳。

 本作は、コルトレーンが唯一ブルーノート・レコードに残したアルバムである。当時プレスティッジ・レコードと契約していたコルトレーンだったが、ブルーノートの創設者であるアルフレッド・ライオンとアルバムを作る口約束をしていて、彼はその約束を果たすために本作をレコーディングしたとのこと。何とも真面目な彼の性格を表すエピソードであるが、これはブルーノートにとって幸いした。のちに押しも押されぬジャズ・ジャイアンツとなるコルトレーン名義のアルバムを、一枚とはいえ記録することができたのだ。

 このあと、コルトレーンは「ジャイアント・ステップス」でシーツ・オブ・サウンドを完成させ、かの「ライブ・アット・ザ・ヴィレッジバンガード」、そして「至上の愛」という途方もない世界へと駆け上がっていく。それは修羅の道を往く修行僧の如き姿であった。凄味に溢れたそれらのアルバムとは異なるが、本作のような若さほとばしる明るさに満ちた一枚もいいではないか。そんな未熟で荒削りな「青い時代」こそ、目を細めたくなるほど輝かしい。そうだ、青くたっていいじゃないか。だってこのアルバムは「Blue Train」なんだから…。

 [ライター:三森勝仁(KatsuhitoWeb)]

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Blue Train / John Coltrane (Blue Note)

 1.Blue Train (John Coltrane)
 2.Moment’s Notice (John Coltrane)
 3.Locomotion (John Coltrane)
 4.I’m Old Fashioned (Jerome Kern, Johnny Mercer)
 5.Lazy Bird (John Coltrane)

  ・Tenor Saxophone : John Coltrane
  ・Trumpet : Lee Morgan
  ・Trombone : Curtis Fuller
  ・Piano : Kenny Drew
  ・Bass : Paul Chambers
  ・Drums : Philly Joe Jones
                         [Recording Date 1957.09.15]

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投稿者: : 2012年8月22日 投稿先 2.Jazz(ジャズ)

 

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