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バードランドの夜 Vol.1 / アート・ブレイキー

09 7月

バードランドの夜 Vol.1 / アート・ブレイキー
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 ものごとには必ず始まりがある。音楽の始まりは太古の昔、我々の遠い祖先が石や木などを叩いてリズムを刻んだことからであろうと推測されている。もちろん、それが何時で誰が始めたのかなどはわかるはずもなく、あくまでも現代の研究者が想像した「きっとそうであっただろう」という範囲でしかない。その理由は、当たり前のようだが「記録が残っていない」からだ。 

 かつて、音楽を記録するものといえば「楽譜」だった。その後、発せられた音をそのまま記録することができる「蓄音機」が発明される。更に時代がくだると、本来”記録”という意味を持ち、音を保存する媒体である「レコード」、更には「カセットテープ」、そして「コンパクトディスク」などが生まれ、現在は単に「データ」としてインターネットを介して配信されるようになった。これらの記録媒体は、時としてものごとの歴史的瞬間を克明に刻みつけ、貴重な記録を後世に残すことに役立っている。

 今日紹介するアルバムは”ハードバップの幕開け”といわれる一枚、アート・ブレイキーの「バードランドの夜」である。(ここでは”ハード・バップの定義”については言及しない) それまでダンスの伴奏のように脇役として扱われることも多かったジャズ・ミュージックを、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーなどによって演奏が主体の”聴かせる音楽”に仕立てたのが「ビ・バップ」。それを更に一歩前に進めたジャズが「ハード・バップ」で、この「バードランドの夜」はその記念すべき最初の歩みと言われているのだ。

 当時アート・ブレイキーらは定型化してしまったビ・バップに飽きがきていた。そこで、新しいリズムのヒントなど「いくつかのアイデアを彼(マイルス・デイビス)から貰って、それを自分なりに膨らませていた(本人談)」状態で、ホレス・シルバーと共に新たな試みを模索していたそうだ。そこにニューヨークのライブハウス”バードランド”から演奏依頼があり、その試行錯誤を実践してみた。それを有りのままに記録したものが本アルバムである。

 本作の魅力を一言で表すなら「はちきれんばかりの若さみなぎるエネルギッシュさ」という言葉に集約できる。歴史的な背景もあるが、それは脇に置いておいても、この夜にバードランドで展開された演奏の見事なまでの完成度は、半世紀以上経た現代も決して色褪せない。この圧倒的な存在感。名盤の名盤たる所以と言えよう。

<#1.アナウンスメント by ピー・ウィー・マーケット>
 このアナウンスは、通常は次の「スプリット・キック」と一緒に”一曲目”としてクレジットされることが多い。しかし、今回は切り離して紹介する。このアナウンスが本アルバムの雰囲気を物語るには欠くことが出来ない重要なものだからだ。始まると声の高低や強弱など、まるで楽器演奏の如き流れるような司会に耳を奪われる。この声の主はバードランドの名物司会者であるピー・ウィー・マーケット。畳み掛けるような早口から結びに向かう言葉の何たる高揚感。これから始まる熱い夜に、否が応でも期待が高まる。

<#2.スプリット・キック>
 ブレイキーの叩きだすアフロ・キューバンなリズムに乗って、クリフォード・ブラウンとルー・ドナルドソンの2管がメロディーを奏でる。それに続いてルー・ドナルドソンのソロ、クリフォード・ブラウンのソロ、そしてホレス・シルバーのソロと続いてゆく。この間のドラムやピアノによるバッキングの、「ビ・バップ」のそれとは明らかに異なるリズムに胸が踊る。そしてブレイキーの繊細でありながら豪放磊落なソロを経てテーマに戻ってエンディング。この一曲で既にノックアウト。

<#3.ワンス・イン・ア・ホワイル>
 マイケル・エドワーズ作曲のスタンダード・ナンバー。一転してのスローバラードは、クリフォード・ブラウンのワンホーンスタイルになる。パリパリとしたクリスピーなブラウニーの音は、甘くなりすぎること無く、変幻自在な吹奏を聴かせる。トランペットをここまで見事にコントロールする奏者は滅多にお目にかかれない。始まりから終わりのカデンツァまで、なんとも歌心溢れる”ニュー・トランペット・センセーション”による圧巻のソロ演奏だ。

<#4.クイックシルバー>
 作曲はホレス・シルバー。タイトルの通り、急テンポで駆け抜けるように曲が進んでいく。チャーリー・パーカー直系ともいわれるルー・ドナルドソンの滑らかなソロ、そして速いテンポに崩れないどころが見事なソロを構築するクリフォード・ブラウンが聴きもの。右手と左手のコントラストが際立つファンキーな顔を覗かせるホレス・シルバーのソロも抜群だ。

<#5.チュニジアの夜>
 ディジー・ガレスピーが作曲した時の話をユーモアを交えて語るブレイキーのMCでスタート。ドラムのアフロ・ビートにカーリー・ラッセルのベース、ホレス・シルバーのピアノが乗って有名なあのメロディーが始まる。一曲を通して根底に流れるエスニックな響きは、シルバーの醸し出すハーモニーによるところが大きい。ラストに聴かれるブラウニーのカデンツァにとどめを刺される。

<#6.メイリー>
 速いテンポの4ビート・ジャズ。名手揃いのこのバンドにはこの速さがまさにぴったりだ。エンディングを迎えたあとに、クロージングテーマとしてこのライブハウスのテーマ曲「バードランドの子守歌」を軽く演奏して終了するのは憎い演出。

 初めに、このアルバムは「ハード・バップの幕開け」と言われている旨を書いた。確かに本作は”ハード・バップ・ジャズを最初に記録したアルバム”というのが定説であるが、実際にはニューヨークのそこここでこのような試みは行われていたようで、決してここに居並ぶ5人のジャズメンの専売特許であったわけではない。しかし、記録とは冷徹なもので、例えそうであったとしても、音が現存していて、しかもそれが極めて完成度の高いものであったなら、”これがハード・バップの始まりである”と決まってしまう。そう。「記録が残っている」というのは、ことほど左様に重要な意味をもっているのだ。

 新しい時代切り拓こうとする若いジャズ・ミュージシャンによる”実験”のような中から生まれたこの夜のライブは、本作Vol.1ともう一つのVol.2に分けて収められている。この2枚によりこのライブが、ジャズの持つ魅力の多くが濃縮された密度の濃いものであったことを知ることができる。半世紀以上も前のこれほど熱気ほとばしる熱いライブ演奏が、いまこの臨場感で聴くことができることはとても貴重で、記録というものの重要性が実感できる。

 ここまで来てなんだが、これまで書いてきたような能書きは、実はあまり意味を成さない。本作は「いいから聴け。これがジャズってぇもんだ」と、初心者リスナーにも胸を張って推奨することができる数少ないアルバムの一つなのだ。まずは聴くべし。すると、そこであなたは”奇蹟のような煌めき”を感じることとなる。そうなったら、もはやあなたも歴史的瞬間の体感者だ…。

 [ライター:三森勝仁(KatsuhitoWeb)]

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A Night At Bird Land Vol.1 / Art Blakey (Blue Note)

 1.Announcement By Pee Wee Marquette
 2.Split Kick (Horace Silver)
 3.Once In A While (Michael Edwards)
 4.Quicksilver (Horace Silver)
 5.A Night In Tunisia (Dizzy Gillespie)
 6.Mayreh (Horace Silver)

  ・Trumpet : Clifford Brown
  ・Alto Saxophone : Lou Donaldson
  ・Piano : Horace Silver
  ・Bass : Curly Russell
  ・Drums : Art Blaker
                         [Recording Date 1954.02.21]

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投稿者: : 2012年7月9日 投稿先 2.Jazz(ジャズ)

 

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