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ラウンド・アバウト・ミッドナイト / マイルス・デイビス

09 5月

ラウンド・アバウト・ミッドナイト / マイルス・デイビス
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 ひとくちにジャズといっても、その中には様々なスタイルがある。時代で切り取ることもできるし、演奏形式で分類することもでき、その他バリエーションは数多あろう。しかしここで、YesかNoか、敵か味方か、正義か悪か…のような二極論を持ち出すならば、ジャズのそれは、演奏が「Hot(ホット)」か「Cool(クール)」かというラベリングが成り立つと思うのだ。 

 ホットなジャズとは、聴くと胸が熱くなる演奏、火花が飛び散らんばかりの熱演、共演者同士の丁々発止、手に汗握る白熱した演奏ぶりが思い浮かぶだろう。エネルギッシュなアドリブ合戦などは、ジャズの聴きどころとしては最もエキサイティングなものだ。それとは異なり、クールなジャズとは何か。Coolには「冷たい」という本来の意味とは別に「格好いい」という意味があり、この格好よさはジャズを語る上で欠くことのできない要素であることに異論はあるまい。(注:ここで言うクールなジャズと、一般的に語られるクール・ジャズは意を異にする) ホットなジャズを「赤い炎」と例えるなら、クールなジャズは「青い炎」である。青白く冷徹なふりをしながらも、実は赤い炎と比して極めて高温なのだ。

 クールなジャズの最右翼…と私が考えるアルバムは、本日紹介するマイルス・デイビスの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」。このアルバムの表題曲ほかにおいて、マイルス・デイビスの代名詞とも言える「ミュート」をつけたプレイが堪能できる。音数を少なくし知性あるアレンジを効かせた上にこのミュートスタイルを確立したことにより、マイルスは「ジャズの帝王」への道に一歩踏み入ったといえよう。彼がこの武器を手にしていなかったなら、その後の彼の栄光は無かったのかもしれない。

 さて、ミュートについて若干の解説を。ミュートとは金管楽器の先端部(通称アサガオ)に付ける弱音器のこと。ジャズトランペットではハーマンミュートという種類のミュートが使用されることが多い。(クラシックではストレートミュートやカップミュートの使用率が高い) 本来は名前のとおり音を弱めるために存在する器具だが、冷ややかで鋭く尖った音色を得るためにも使用されている。マイルスのミュートトランペットにおける金属的でデリケートな音は、「卵の殻の上を歩くような」とも形容され、繊細でヒヤリとした独特の肌触りを持っている。

<#1.ラウンド・アバウト・ミッドナイト>
 ジャズ・ピアニストであるセロニアス・モンクが作った曲としてあまりに有名だが、その決定的な名演は作曲者自身ではなくマイルスのこのテイクであろう。私がこのアルバムをここで取り上げた理由のほとんどは、このラウンド・アバウト・ミッドナイトが含まれたアルバムである…ということに由来する。全編に渡ってメロディーの綴り方、間の取り方が絶妙。突き刺さるマイルスの一音一音が聴きどころといえる。また、イマジネーション溢れるポール・チェンバースのベースバッキングにも要注目。名前のごとく、これぞ真夜中のジャズである。

<#2.アー・リュー・チャ>
 本アルバムで最も早く録音されたこの曲では、マイルスはミュートを使わずオープンで吹ききっている。ジョン・コルトレーンの演奏がドタバタしているのはご愛嬌。偉大なるジャズ・ジャイアンツにこんなことをいうのは失礼極まりないが、こういう実践を経て人は大きく羽ばたいていくのだなぁ…と孫を見るように目を細めてしまう。(私にはまだ孫はいない) 本アルバム中では#5と同様にテンポの速い曲であり、バックを務める3人のリズムセクションの良さが随所に顔を出す。

<#3.オール・オブ・ユー>
 1954年に発表されたコール・ポーター作曲のこのポピュラー・ソングで、マイルスは再びミュートに戻る。このあと何度となく演奏され録音も残されている曲だが、どれもこのアルバムのアレンジを踏襲していることからすると、マイルスはかなりこのミディアムテンポが気に入っていたとみえる。コルトレーンのプレイのみに着目すれば、本アルバム中で最もクリエイティブな演奏が聴けるのがこの曲だ。(…とここでまたと孫を見るような目に)

<#4.バイ・バイ・ブラックバード>
 まずはイントロ。レッド・ガーランドがブロックコードで紡ぎ出す和音が一気に曲の世界へと誘ってくれる。その後に続くマイルスのミュートトランペット。淡々とメロディーをトレースしているようだが、随所にフェイクを交え、泣きのトランペットを奏でる。トランペットのミュート音というと引き締まった緊張感のある音を想像するだろうが、ここで吹奏されるマイルスのそれには心地よい暖かさが篭っている。怖そうだけど結構いい奴かも…マイルス。

<#5.タッズ・デライト>
 ここではオープンに戻ったマイルス。速いテンポで疾走する息の合ったリズムセクションの上の乗り、軽やかでリラックスしたプレイを聴かせる。淀みなく流れる川ようなフィリー・ジョー・ジョーンズのドラミングが気持ちいい。

<#6.ディア・オールド・ストックホルム>
 渋く味わい深いのアレンジが聴き応えのするテイク。ベースソロが大きくフィーチャーされているのも特徴的だ。最後にソロを取るマイルスのミュートトランペットが、曲全体の構成をぐっと引き締めている。

 学生時代ジャズ研に属していてのちに芸人となるタモリは先輩に、「マイルスのペットは泣いてるが、お前のペットは笑っている」と言われ、トランペットで身を立てることを諦めた…とタモリ本人が語っている。まぁこれは単なる冗談であろうし真偽の程は定かではないが、ここにはひとつの真理が潜んでいる。マイルスのトランペットには、誰が聴いても感じられる「涙が溢れるほどの悲痛なる叫び」が有る。そして、マイルス本人はそれを目をギョロリと見開き、冷静に奏でているのだ。あぁなんとクールなことよ。

 ジャズって、おしゃれで知的で大人でかっこいい…のようなイメージを持つ人にとっては、ともすれば暑苦しく感じられるホットなジャズよりも、クールなジャズのほうが聴き心地が良いはずで、本アルバムはそのような向きに合った一枚といえる。また、名盤のアルバムジャケットがどれも秀逸なように、本アルバムジャケットの何たる洒落た風合い。これをクールと言わずして何がクールであろうか。つまりジャズの入り口として、本アルバムがもつ魅力は計り知れないわけだ。…しかし注意してほしい。迂闊に近づくとヤケドする。その中心にはメラメラと燃えさかる青白い炎がヒッソリと潜んでいるのだから…。

 [ライター:三森勝仁(KatsuhitoWeb)]

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‘Round About Midnight / Miles Davis (Columbia Records)

 1.’Round About Midnight (Thelonious Monk)
 2.Ah-Leu-Cha (Charles Parker)
 3.All Of You (Cole Porter)
 4.Bye Bye Blackbird (Mort Dixon, Ray Henderson)
 5.Tadd’s Delight (Tad Dameron)
 6.Dear Old Stockholm (Traditional)

  ・Trumpet : Miles Davis
  ・Tenor Saxophone : John Coltrane
  ・Piano : Red Garland
  ・Bass : Paul Chambers
  ・Drums : Philly Joe Jones

     [Recording Date 1955.10.27(#2), 1956.06.05(#4,5,6), 1956.09.10(#1,3)]

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2件のコメント

投稿者: : 2012年5月9日 投稿先 2.Jazz(ジャズ)

 

ラウンド・アバウト・ミッドナイト / マイルス・デイビス」への2件のフィードバック

  1. 小俣哲弥

    2012年5月11日 at 15:58

    まいるすのミュート….素晴らしくいいぜぇ~(スギちゃん風)!!

     
    • KatsuhitoWeb

      2012年5月11日 at 17:27

      コメントありがとうございます。ほんとですよね。

       

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